地中埋設物が見つかったら責任を問われる?|売主が知っておくべき免責条項と実際のリスク

地中埋設物損害賠償

皆さま、こんにちは!
高知県で相続不動産や空き家、売却・処分が難しい不動産を専門に扱う、株式会社福島屋代表の上田です。

不動産売買契約書に記載される「地中埋設物に関する免責条項」については、多くの不動産会社が特約として必ず盛り込んでいます。

しかし、その内容や本当の意味について、疑問を持つ買主・売主の方も少なくありません。

そこで本日は、不動産売買契約における地中埋設物の責任範囲と、免責条項がある場合に本当に請求できないのかについて話してまいります。

地中埋設物とは?

「地中埋設物(ちちゅうまいせつぶつ)」とは、土地の地面下に残されている構造物や廃材のことを指します。

一般的な例としては、

  • 旧建物の基礎コンクリートや杭
  • 浄化槽・汚水槽
  • 瓦礫、レンガ、廃棄物
  • タンク、配管、浄水設備

などが挙げられます。

これらは地表から見えないため、売却前に気づかれないことが多く、撤去費用が高額になることもあります。

土地売買地中埋設物

契約書に「地中埋設物免責」とある場合の原則

不動産売買契約書には、しばしば次のような条文が入ります。

売主は、本物件の地中埋設物に関する調査を一切実施していないが、現況有姿のまま本物件を買主へ引き渡すものとする。
買主は、本物件上に建物を新築する際などに、地中埋設物の有無について建築会社等から調査を求められる場合があることを承諾し、その結果、地中埋設物の撤去や処理等が必要となった場合は、すべて買主の責任と費用負担において実施するものとする。買主は、これに関して売主および媒介業者に対し、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除等、一切の契約不適合責任を追及しないものとする。

このような契約不適合責任免責条項がある場合、原則として買主は地中埋設物に関する損害を請求できません。

つまり、「掘ってみたらコンクリートや瓦礫が出てきた」程度では、売主に撤去費用を求めることはできないのが基本です。

不動産売買売主責任

それでも売主が責任を負う場合がある

ただし、免責条項があってもすべてのケースで責任を免れるわけではありません

次のような場合には、売主の責任が認められる可能性があります。

① 売主が埋設物の存在を知っていたのに黙っていた場合

売主が地中埋設物の存在を知っていながら説明をしなかった場合、「信義則違反」または「説明義務違反」として免責条項が無効になる可能性があります。

例:過去に解体工事を行い、基礎コンクリートを残したことを知っていたのに告げなかった場合。

② 契約の目的を達成できないほど重大な障害

買主が「建物を建てるための更地」として購入したのに、地中に大量の廃棄物があり建築が不可能になった場合などは、契約の趣旨から見て免責条項が制限されることがあります。

③ 売主が容易に知り得た場合

売主が注意を払えば容易に地中埋設物の存在を知ることができたにもかかわらず、調査や確認を怠った場合には、過失があるものとして免責条項の適用が制限される可能性があります。

売買契約書地中埋設物免責

実務上のリスク回避策

売主側の対策

  • 契約書で「地中埋設物に関する一切の責任を負わない」旨を明記する
  • 「現況有姿」での引渡しを記載し、買主が了承したことを明確にする

買主側の対策

  • 事前に地中レーダー調査ボーリング調査を実施する
  • 「重大な埋設物が見つかった場合は協議のうえ対応」とする特約を追加する

財務省は「地中埋設物調査」を義務付けている

国の財産(土地)を一般競争入札で売却する際、財務省は必ず地中埋設物の有無を調査しています。

これは、売却後にトラブルを防ぐための国の基準であり、「民間でも同様の確認が必要である」ことを示唆しています。

つまり、調査を行わずに免責条項だけで済ませることは、リスク管理として不十分なのです。

不動産取引においては、「知らなかった」では済まされない場合があります。

地中埋設物ボーリング調査

地中埋設物の主な調査方法と費用目安

調査方法内容・特徴精度費用目安(概算)向いているケース
地中レーダー探査地表から電波を照射し、埋設物の反射を確認する非破壊調査。掘削せず短時間で実施可能。★★☆☆☆約5〜10万円/1回まずおおまかに地中の状況を把握したい場合
試掘調査実際に一部を掘削して、埋設物の有無・種類を直接確認する方法。★★★★☆約10〜30万円/1カ所レーダーで反応が出た箇所を確実に確認したい場合
ボーリング調査専用機械で地中に穴を開け、土や障害物のサンプルを採取。地盤強度や汚染も同時に確認可能。★★★★★約20〜50万円/1カ所建築予定地や土壌汚染リスクを含めて総合的に確認したい場合

まとめ|“免責条項があれば安心”は誤解

ケース買主の請求可否備考
契約書で免責+売主が知らなかった✕ 請求できない原則通り免責
売主が知っていて黙っていた〇 請求可能説明義務違反
建築できないほど重大な埋設物〇 請求可能契約目的が達成不可
文言が曖昧・範囲が不明確△ ケースにより判断解釈次第で争点に
免責事項が万能という誤解

免責条項は万能ではない

地中埋設物の有無は、現地を見ただけでは判断できない“見えないリスク”です。

たとえ契約で免責条項が定められていても、契約の目的を根本から妨げるような重大な瑕疵については、免責が認められない場合があります。

実際の裁判では、売主が地中調査を怠ったことが過失と判断され、責任を問われた事例もあります。(東京高等裁判所・平成25年2月20日判決)

その土地や周辺の過去の利用状況を調べることで、埋設物の可能性を推測できる場合もあります。

つまり、免責条項は万能ではありません。

契約前にリスクを理解し、必要に応じて調査や専門家への相談を行うことが、トラブルを防ぐ最善の方法です。