皆さま、こんにちは!
高知県で相続不動産や空き家、売却・処分が難しい不動産を専門に扱う、株式会社福島屋代表の上田です。
2026年度から、日本郵便が「管理が不十分な空き家」の持ち主について、転居情報を自治体へ提供する制度を拡充する方向で準備が進んでいます。
「所有者不明だから対応できない」という自治体の悩みを解消する狙いを持つこの制度変更は、空き家所有者にも大きな影響を及ぼし得ます。
そこで本日は、この制度の背景や注意すべきポイントを整理しながら、今後の空き家対策にどのような影響を及ぼすのかについて話してまいります。
目次
なぜ「転居情報提供」の拡充が問題になっているか
所有者不明空き家の増加と地域リスク
- 現在、所有者がわからない、または連絡が取れない空き家は全国で約 4万7000戸 に上るとの報道があります。
- 所有者が特定できなければ、自治体としては倒壊リスク・ごみ散乱・衛生上問題のある空き家への対応が難しく、地域住環境の悪化を招く懸念があります。
特定空き家と郵便情報の提供
- すでに「特定空き家」に対しては、自治体の照会に応じて郵便局が持ち主の転居先情報を無償で提供してきた実績があります。
- ただし対象は「倒壊等の危険」「衛生・景観に著しい悪影響」などの要件を満たすものに限られており、比較的限定的でした。
管理不全空き家を対象に拡大
- 2023年の改正空き家対策特別措置法では、自治体が「特定空き家」になる前の段階である「管理不全空き家」に対しても、指導や勧告を行えるよう制度が拡充されました。
- 日本郵便は、この「管理不全空き家」についても転居情報の提供対象を拡大する方向を見据え、2026年度からの実施を目指しています。
- ただし、郵便法の規定との整合性を保つため、「情報提供の利益」が「秘密保護の利益」を上回ることが条件とされる見込みです。

制度の概要(予想される内容)
下表は、現時点で報じられている内容をもとに予測を整理したものです。
項目 | 内容(報道/予想) |
---|---|
対象 | 管理不全空き家(壁・屋根破損、雑草・ごみ放置、敷地内散乱など) |
照会方法 | 自治体による照会に応じて郵便局から情報提供 |
手数料 | 管理不全空き家については、自治体からの照会に1件あたり手数料を設定する可能性あり |
提供条件 | 情報提供における利益が、秘密保護義務を上回ると判断される場合 |
法的制約 | 郵便法に基づく個人情報保護義務を考慮・制約要件を設ける |
関連制度 | 空き家対策特措法、自治体の指導・勧告制度、固定資産税軽減除外措置など |
この制度が導入されれば、倒壊や著しい劣化に至る前の、比較的軽度な空き家の段階からでも、自治体が所有者に対して早期に働きかけを行いやすくなると見込まれます。

想定される影響
所有者・相続人にとって
- 突然自治体から連絡が来る可能性
- 指導・勧告の対象になる前段階での対応要請
- 固定資産税軽減措置の除外対象となるリスク
- 解体・維持管理の費用負担
- 所有者としての責任意識の強化を迫られる
自治体・行政担当者にとって
- 持ち主把握のハードル低下
- 指導・勧告権限の活用拡大
- 照会・情報処理・対応業務の増加
- 誤提供・誤照会リスクへの対応
- 地域住環境改善の機会拡大

留意点・リスク
- プライバシー・個人情報保護との整合性
郵便情報は本来、差出人・受取人の住所が保護されるべき情報です。情報提供には、利益衡量・条件設定など慎重な運用が不可欠です。 - 誤提供・誤照会リスク
既に転送届が出ているだけで「管理不全」と誤判断されるケースや、転居後に別人が住んでいる物件など、誤提供のクレームが生じ得ます。 - 制度運用コスト・負担
照会手続き、照会内容の精査、回答業務、後続対応など、自治体・郵便局双方に相応のコストがかかる可能性があります。 - 所有者対応の分岐点
持ち主が対応不能(資金不足・合意の不在など)の場合、制度があっても実質解決策につながらないケースが想定されます。 - 制度の拡大範囲・段階導入
すべての「管理不全空き家」が対象になるわけではなく、段階的導入・地域限定導入の可能性があります。
今後準備しておくこと
所有者・相続人
- 空き家を所有している場合、管理状態を整理し、早期対応プランを検討
- 近隣からの指摘を受けたときに備え、連絡先や管理履歴を整理しておく
- 売却・解体・修繕・利活用可能性をあらかじめ見積もる
自治体・行政
- 照会フロー・システム構築の検討
- 誤提供リスク対策(照会結果の再確認体制、異論申し立て手続きなど)
- 所有者対応マニュアル整備、相談窓口設置
- 他自治体の先行事例の収集・共有

まとめ|所有者を特定しても、それだけでは空き家問題は解決しない
2026年度以降、日本郵便による転居情報提供制度の拡充は、空き家対策の構図を変える可能性を秘めています。
「持ち主が特定できないから手がつけられない」という従来のボトルネックを少しでも解消するための一歩です。
ただし、制度だけで空き家問題が根本的に解決するわけではありません。
制度を活用して「所有者を特定する」ことが目的ではなく、特定後にどのように空き家を管理・活用・処分へとつなげるかという実行段階まで見据えた仕組みづくりが欠かせません。