皆さま、こんにちは!
高知県で相続不動産や空き家、売却・処分が難しい負動産を専門に扱う、福島屋代表の上田です。
弁護士や司法書士に「相続放棄」を相談すると、「相続財産清算人(旧:相続財産管理人)の申立てもしておいた方がいいですよ」と勧められることがあります。
しかし、過疎地の築古空き家や売れない土地といった“負動産”を抱えたケースでは、そのアドバイスを鵜呑みにすると相続人が想定外の出費を負うことがあります。
そこで本日は、
- なぜ専門家は「清算人」を勧めるのか
- 予納金の正体と費用負担の実態
- 実際に損をしないための判断基準
を、制度の構造と現場の実務からわかりやすく話してまいります。
目次
相続放棄と相続財産清算人の関係
相続放棄の基本
相続放棄が家庭裁判所で受理されると、法律上は「初めから相続人でなかったもの」とみなされます(民法939条)。
つまり、放棄が成立すれば、
- 固定資産税
- 建物管理の義務
- 倒壊事故などの賠償責任
といった一切の責任から完全に外れることができます。
相続財産清算人とは?
一方で、相続放棄によって誰も財産を引き継がない場合、残された不動産などを整理・処理するために、家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任できる制度があります(民法952条以下)。
清算人の主な役割は、
- 財産の管理と売却(換価)
- 借金や未払金の清算
- 残余財産の国庫帰属
そして、清算人を選任する際に必要となるのが「予納金」です。

予納金とは?
予納金とは、清算人の活動費や報酬、公告費用などをまかなうために申立人が前払いで家庭裁判所に納めるお金のことです。
相場は概ね20万円〜200万円前後で、財産の規模や所在地によって大きく異なります。
しかも、清算人の申立ては義務ではなく任意です。
つまり、相続放棄をしても清算人を立てる必要はないのです。
専門家が「清算人を立てた方がいい」と言う3つの理由
① 万一の法的リスクを避けるため
弁護士や司法書士が最も恐れるのは、「放棄した相続人が実質的に財産を管理していた」とみなされるリスクです。
過去の裁判例では、放棄後に土地の草刈りや建物の片付けを行ったことが、“事実上の管理行為=相続を承認した”と判断されたケースもあります。
▶ 東京地裁平成27年2月判決
放棄後に土地を維持管理した行為を“相続の承認”と認定。
そのため、専門家は「あなたは一切関与せず、清算人に任せましょう」と助言するのです。
② 倫理上の“安全策”
弁護士・司法書士には「依頼者に不利益を与えない助言義務」があります。
つまり、万が一に備えて最も安全なルートを提示せざるを得ません。
「清算人を立てておけば万全です」と案内しておけば、後日トラブルが起きても「必要な説明は行っていた」と主張できるからです。
③ 実務慣行化している
法律相談の現場では、「相続放棄+清算人申立て」がセットのように扱われる慣行が広がっています。
しかし実際には、
- 清算人を立てても不動産が売れない
- 予納金を払っても解体費が出ない
- 結果的に清算不能で終了
という事例が多く、相続人にとって支払う意味がほとんどないのが現実です。

相続放棄は清算人なしでも成立する
ここが最も重要なポイントです。
相続放棄の受理と清算人の選任はまったく別の手続きです。
| 手続内容 | 費用 | 効果 |
|---|---|---|
| 相続放棄のみ | 印紙800円+切手代+戸籍謄本など関係資料(数千円〜1万円前後) | 相続人でなくなる(法的責任ゼロ) |
| 清算人申立て | 数十万円〜百万円以上(予納金) | 財産を処分・清算(任意) |
放棄さえ受理されれば、予納金を払わなくても法的責任からは完全に離脱できます。
「誰も申立てない」構造的な理由
例えば、相続人が5人全員放棄した場合でも、清算人を立てる義務は誰にもありません。
誰か1人が申立てれば、その人が予納金を全額負担します。
他の相続人には一切の支払義務がありません。
つまり、
「払った人だけが損をする」という不公平な構造のため、誰も申立てをしないのが合理的な行動です。
結果として、登記は故人名義のまま放置され、行政も処理できない「宙に浮いた不動産(所有者不明土地・建物、いわゆる“清算不能負動産”)」が増え続けています。
専門家の建前と実務の現実
| 観点 | 専門家の建前 | 実務の現実 |
|---|---|---|
| 法的安全性 | 清算人を立てるべき | 放棄のみで責任免除 |
| 費用負担 | 予納金で安全確保 | 費用倒れになる |
| リスク説明 | 安全策として助言 | 実務上は不要な支出 |
| 結果 | 万全だが高額 | 放棄だけで十分 |

まとめ|相続放棄の予納金と清算人の本当の関係
相続放棄は「清算人を立てなければ成立しない」という誤解が広がっています。
しかし、過疎地や再建築不可の土地など、処分困難な負動産では、清算人を立てても意味がないケースがほとんどです。
🔸 相続放棄の予納金は、清算人を立てるための費用であり、義務ではない。
🔸 放棄自体は予納金を払わずに成立し、法的責任からも離脱できる。
🔸 清算人を立てても財産が換価できない場合、相続人が損をするだけ。
🔸 現場では「放棄のみ」で対応する例が多数。


































