相続登記は慎重に!善意の登記が家族の負担を増やすことも

負動産と産業廃棄物埋設地

皆さま、こんにちは!
高知県で相続不動産や空き家、売却・処分が難しい不動産を専門に扱う、株式会社福島屋代表の上田です。

先日、あるご相談がありました。

相談者は、高知県内にお住まいの83歳の男性で、5人兄弟の長男です。

お父様が亡くなられてからすでに20年が経過しており、これまで登記をせずに放置していた不動産について、「相続登記の義務化」が始まることをきっかけに登記と売却を検討されていました。

相続不動産には、宅地、建物、山林、農地などが含まれています。

しかし、最大の問題は40年ほど前までお父様が建設会社に貸していた約500坪の雑種地でした。

地中に大量の産業廃棄物が埋設されていた

その土地は高知県内にあり、見た目はただの雑草地に見えるものの、過去に貸していた建設会社が無許可で大量の産業廃棄物を埋めたまま撤退していました。

しかも、その建設会社はすでに倒産しており、代表者も亡くなっています。

さらに、借用書などの証拠も残っていないため、処理の責任を追及することもできません。

産廃の処分量は安く見積もっても数千万円規模です。

相続したとしても、所有者として「土地の管理責任」や「原状回復義務」が生じる恐れがあります。

負動産の相続登記は慎重に

国庫帰属制度の対象にもならないケース

「相続土地国庫帰属制度」を使って国に引き取ってもらうことも考えられますが、このケースでは難しいと判断されます。

なぜなら、この制度には「除去しなければ通常の管理または処分ができない有体物が地下に存在する土地」は不承認とする要件があるためです。

つまり、産業廃棄物が埋まっている土地は、国庫帰属制度の対象外となります。

負動産と産業廃棄物埋設地

「長男だから自分が登記を」その善意が裏目に出ることも

相談者様は、「他の兄弟が気の毒だから、長男である自分が責任を持って相続登記をするつもりだ」とお話しされました。

そこで、私は一つ質問をしました。

「お子様はいらっしゃいますか?」

相談者様には2人の娘さんと4人のお孫さんがいます。

もしご本人がそのまま相続登記をしてしまえば、将来の相続時に問題の土地が娘さんたちへと引き継がれることになります。

相続放棄をすれば回避できますが、その場合は他の資産もすべて放棄しなければなりません。

“責任感のある登記”が、次世代を苦しめることも

ご本人の「責任感」や「兄弟思い」は本当に立派です。

しかし、相続登記という行為は、善意のつもりで行ったことが、結果的に一番大切なご自身の子どもたちの重荷になってしまうこともあります。

相続した不動産が「負の遺産(負動産)」である場合、登記を急がずにご親族全員で慎重に話し合うことが大切です。

とくに高齢の相続人が単独で判断してしまうと、後の世代が大きな負担を背負うことになりかねません。

相続放棄や生前贈与という選択肢も視野に

相続放棄も、タイミングを誤らなければ有効な手段です。

放棄すれば問題の土地を引き継ぐことはなくなります。

また、状況によっては、預金や他の不動産などのプラスの資産を生前贈与や売却によって整理・処分することも検討できます。

贈与税や譲渡所得税がかかりますが、数千万円の撤去費用や将来の重荷を防ぐことを考えれば、十分に検討する価値があります。

負動産の相続登記は慎重に

まとめ|相続登記は「家族全員の問題」として考える

相続登記は「名義を整えるだけ」の作業ではありません。

すべてがプラスの資産であれば問題ありませんが、近年問題化している“負動産”のことを考えると、その先にある管理責任・税負担・将来のリスクまで見据えることが重要です。

今回のように、「善意で引き継いだ登記」が結果的にお子様の負担を増やすケースは決して珍しくありません

長期間登記がされていない相続不動産で相続人が多数に及ぶ場合は、登記の前にお子様やご兄弟、甥や姪など法定相続人全員で十分に話し合い、公平かつ冷静に方向性を決めることが重要です。

ABOUT US
上田 司代表取締役/宅地建物取引士
相続した負動産で苦労した自身の経験を原点に、同じような悩みを抱える方の支えになりたいとの思いから、負動産専門のサポート事業を開始。相続不動産を中心に、各分野の専門家と連携し、売れない家や土地の再生・譲渡・国庫帰属など多角的な解決策を提案。高知県の空き家・遊休地問題の解決を使命とし、地域の実情に即した情報を発信しています。